
舌側矯正装置
本日はマルチブラケット装置の中でも、歯の裏側につける装置である舌側矯正装置について見ていきましょう。
舌側矯正装置は、ワイヤーを介して歯の三次元的な移動ができるという唇側矯正のメリットに、目立たないという審美面のメリットも加わったとても有能な装置です。
メリット・デメリット
舌側矯正装置のメリットは目立たないこと、これにつきると思います。デメリットとしては、歯の裏側は表側に比べて狭いため矯正装置も小さく、調整に時間がかかる(難しい)こと、歯の表側と違い、歯の裏面は形態が人によって様々であるため、患者さんの歯の裏面の形態に合うように装置のカスタマイズが必要になり、そのための技工代かがかる(費用が高くなる)ことです。
基本構成
基本的には歯の舌側に装着されたブラケットとアーチワイヤーから構成されますが、最後方臼歯舌側にブラケットを装着するための十分な面積が無い場合などには、クロスオーバーテクニクと言って奥歯のみ、唇側にブラケットを装着して排列を行うことがあります。また抜歯矯正の場合は口蓋に歯科矯正用アンカースクリューを植立することが舌側矯正の場合はほとんどです。
作用機序
基本的には唇側矯正と同じく、ブラケットスロットに最終的に断面が長方形のワイヤーを使用し、理想的な歯列と咬合を完成させていくわけですが、いくつか違いがあります。まず一つ目の違いが、リンガル矯正の場合ブラケット間距離が短いことです。そのため安全で効率的な歯の移動にはより、細くてたわみのあるワイヤーの使用が必要になります。2つ目の違いとして前歯が舌側傾斜(倒れ込む)しやすいことが挙げられます。
舌側矯正で上顎の前歯の後方移動の時の力系を考えてみましょう。前歯に後方に牽引する力を加えると、唇側矯正の場合でも舌側矯正の場合でも、前歯を舌側(内側)に倒そうとするモーメント(回転力)が発生します。このままでは歯が垂れ下がるだけで歯根の移動ができないため・・・
前歯が舌側に垂れ下がる力に対抗する青色のモーメント(回転力)を発生させます。その時に黄色の圧下力をかけて前歯に頬側方向に回転する力を加えるのですが、図のように抵抗中心と圧下力の力線との距離(青の点線)が唇側矯正の場合はしっかりあるのに比べて、舌側矯正の場合は距離が全然無いため(モーメント=力×距離)、舌側に倒れる力に対抗するモーメントが全然かかりません。そのため、リンガル矯正は前歯(上顎)が舌側に倒れやすいのです。
そこで舌側矯正の場合、口蓋側に歯科矯正用アンカースクリューを植立し、牽引用アームの長さを調整し、牽引力が抵抗中心を通るようにして、まっすぐ牽引する(歯体移動)などの工夫が必要になります。
逆にこの抵抗中心と舌側ブラケットの位置関が有利に働くこともあります。例えば下顎歯列を排列するときに唇側矯正の場合、下顎前歯の唇側傾斜(フレアアウト)が起こりやすいですが、舌側矯正の場合は歯の抵抗中心より舌側にブラケットがあるため、唇側傾斜が起こりにくいので、下顎歯列を非抜歯で排列しても理想的な前歯の位置を維持しやすい、抜歯矯正の場合、前歯がしっかり内側に入るなど舌側矯正ならではのメリットもあります。
そのほかにも、牽引力によって引き起こされるボーイングエフェクトや、舌側に傾斜しやすい奥歯への配慮など、唇側矯正とのバイオメカニクス上の違いに配慮が必要になります。
使用方法・適応症
舌側矯正治療はほとんどすべての症例に適応可能です。特に口元をしっかり後退させたい症例に向いていると思います。舌側矯正治療に興味のある方は一度ご相談ください。
監修
おとなとこどもの歯並び
中山矯正歯科・小児歯科 西大寺 院長
中山 雄司(なかやま ゆうじ)
経歴
- 2012年3月
大阪歯科大学卒業 - 2018年3月
大阪歯科大学大学院歯学研究科博士課程終了 - 2019年4月
大阪歯科大学 歯科矯正学講座 助教 - 2021月4月
大阪歯科大学 附属病院矯正科 診療主任 - 2021年12月
日本矯正歯科学会認定医取得
資格・所属学会
- 歯学博士
- 日本矯正歯科学会認定医
- 日本矯正歯科学会
- 近畿東海矯正歯科学会
- 日本舌側矯正歯科学会
- 日本顎変形症学会
- 近畿矯正歯科研究会
- 日本顎関節学会
- 日本歯科医学教育学会
