目次
歯科矯正学の歩み
古代の歯科矯正学
今からなんと、2800年前(紀元前8世紀)イタリア中央部のエトルリアで初めて歯の移動が行われていたそうです。
(前歯が欠損したところへの義歯の装着や歯の移動)
それから400年後…(紀元前4世紀)
ギリシャ時代にはヒポクラテスが歯列の不正の問題について指摘しました。
ヒポクラテス
古代ギリシャの医者「医学の父」、「医聖」、「疫学の祖」などと呼ばれる
※Wikipedia「ヒポクラテス」. https://ja.wikipedia.org/wiki/ヒポクラテス 2024/8/20
ローマ時代(紀元前25年)では萌出中の歯を指圧で動かしていたそうです(Celsusの記述より)
ちなみに歯科矯正学=Orthodonticsは
ギリシャ語のortho-(正しい、まっすぐな)、-odon(歯)、-ikos(-iks=科学)に由来しています
口腔内に矯正装置を装着し始める
口腔内に矯正装置を装着するのは歯科医学の父と呼ばれるフランスのFauchardが歯列の唇側にアーチ状の金属板をおき小孔と歯を紐で結び歯を移動させたそうです(18世紀)。
19世紀になると上下顎歯列の関係に着目して歯の位置異常を改善する装置が考案されました。
Kingsley→咬合斜面版
アンドレーゼンとホイプル→FKO
functional matrix theory(機能母体説)の登場
1964年Mossによって、顎顔面の器官の発生、成長、維持は機能的反応であり、二次的かつ代償的であるとするfunctional matrix theory(機能母体説)が提唱された。
それまでは骨格の成長は遺伝的要因によるものと考えられていた。これに対しMossは、必要な機能が成長してそれに合わせて骨が成長する。つまり不正咬合の原因には機能的なものが先で硬組織、骨格的なものが結果としてついてくるという考え(骨格は機能によって形成される)。
骨格は機能によって形成されるという考えは、ヨーロッパとアメリカの当時の経済的な格差を背景に、安価に作成できる可徹式矯正装置と高価な金属でできており、金属のワイヤーによって歯を移動させる固定式装置装置とに別れて発展しました。
マルチブラケット(エッジワイズ)装置の登場
今から100年ほど前、アメリカで歯根を3次元的に移動させることのできるマルチブラケット装置(エッジワイズ装置)がAngleによって考案されました。その後Andrewsによって今日も使用されているストレートワイヤー法が発表されて以来、リンガルブラケットやセルフライゲーションブラケット(細金属線でワイヤーを固定する必要ないブラケット)等、様々なブラケットが普及しています。
Edward H. Angle
マウスピース矯正の普及
透明なプラスチック製マウスピースを用いて歯を動かす治療法は1880年代後半には始められていたようです。1997年にアメリカのアライン・テクノロジー社で「インビザライン」が開発されたことをきっかけに、現在たくさんの先生がマウスピース矯正治療を行なっています。
最後に
今日の矯正治療は先人たちの、研究や装置の開発、改良のにより成り立っております。例えば1948年にDownsにより頭部エックス線規格写真分析法が確立され、上下顎骨の位置や歯の位置等を正確に評価することが可能となり、激的に診断の精度が向上しました。現在ではCTを用いた画像分析技術の発展により、顎顔面の三次元的な解析も可能になりました。1980年代には超弾性の形状記憶合金であるニッケルチタンワイヤーが出現、さらに歯科矯正用アンカースクリューの矯正治療への応用により、患者さんの負担を大幅に軽減することができるようになりました。矯正治療の歴史を振り返ることで先人たちの功績に感謝し、今後のさらなる技術や材料の発展の一翼を担えるよう努めたいと思います。
飯田順一郎 他.『歯科矯正学 第6版』.医師薬出版株式会社.2019年,436P
氷室 利彦 他.『歯科衛生学シリーズ 歯科矯正学』.医師薬出版株式会社.2023年,194P
監修
おとなとこどもの歯並び
中山矯正歯科・小児歯科 西大寺 院長
中山 雄司(なかやま ゆうじ)
経歴
- 2012年3月
大阪歯科大学卒業 - 2018年3月
大阪歯科大学大学院歯学研究科博士課程終了 - 2019年4月
大阪歯科大学 歯科矯正学講座 助教 - 2021月4月
大阪歯科大学 附属病院矯正科 診療主任 - 2021年12月
日本矯正歯科学会認定医取得
資格・所属学会
- 歯学博士
- 日本矯正歯科学会認定医
- 日本矯正歯科学会
- 近畿東海矯正歯科学会
- 日本舌側矯正歯科学会
- 日本顎変形症学会
- 近畿矯正歯科研究会
- 日本顎関節学会
- 日本歯科医学教育学会